こんにちは、つけものなすです。
今回は、アメリカ・ボストン最大の未解決事件のドキュメンタリー『ガードナー美術館盗難事件 -消えた5億ドルの至宝-』について書きたいと思います。
ガードナー美術館盗難事件 -消えた5億ドルの至宝-
盗まれた美術品
『ガードナー美術館盗難事件 -消えた5億ドルの至宝-』(原題:This Is a Robbery: The World’s Biggest Art Heist)は、2021年4月7日に配信開始されたNetflixオリジナルのドキュメンタリーです。全4エピソードのリミテッドシリーズ。1エピソードは約50分です。
1990年3月18日、アメリカ・ボストンにあるガードナー美術館で、警察官を装う男二人組が、美術品13点を盗みました。警察やFBIが捜査をしますが、犯人を捕まえることができず、未だ美術品は行方不明となっています(2021年4月時点)。
盗まれた美術品はレンブラントの「ガラリアの海の嵐」やマネの「トルトニ亭にて」など、被害総額は5億ドルとも言われています。
なぜ、男たちは美術品を盗むことができたのでしょうか。
事件当日
事件当日の深夜、ボストン警察を装う男二人組がガードナー美術館に押し入り、美術品を盗み出しました。犯行時間は、なんと81分。
館内には夜勤の警備員二名がいたのですが、テープで体を縛られ、館内の地下水道に閉じ込められていました。
警備員は、警察官の格好をした男に「騒ぎがあったと通報を受けた」とインターホンに連絡があり、警察官二人を館内に入れました。
事件当日の監視カメラの映像(VHS)は盗まれ、前日の映像には謎の男性が映っています。
当時はDNA鑑定などの科学捜査を行うことができず、FBIが現場に到着した頃には警察に犯行現場が荒らされていました。FBIには、美術品盗難の犯罪に特化したチームもなく、ノウハウがありませんでした。押収した証拠品が紛失するなど、現在ではありえないことが起こっていました。
FBIは館内の監視カメラの位置や関係者しか知らない秘密情報を知っている、計画的な犯罪として捜査に乗り出します。
盗まれた美術品は足がついてしまうため、公の場では売ることができません。そのため、美術館側は報奨金として100万ドルを用意しました。
マイルズ・コナー
容疑者の一人として浮上したのが、美術品泥棒のマイルズ・コナー(Myles J. Connor, Jr.)です。
1975年、ボストン美術館で美術品を盗み、1988年、バングス・ハレット大佐邸美術館で美術品を盗みました。時には警察官と銃撃戦にもなり、何度か撃たれてもいます。
ドキュメンタリー内で、ドヤ顔をして当時の犯行の様子を話しているのは個人的にツボです。
如何にも怪しい男ですが、事件当時は盗難事件でFBIに逮捕され服役中でした。
ネタバレ感想
ここから先は物語の結末にも触れているのでネタバレ注意です。
疑われる警備員
館内には人感センサーが付いており、部屋の入室記録をつけていました。美術品が盗まれた部屋の中には、警備員のリチャード・アバスが見回りに行った時の入室記録しか存在せず、リチャードは事件に関与していると疑われます。
リチャードは勤務態度が悪く、酒に酔った状態で出勤することも多々あり、事件当日も薬でハイになっていたと言われています。
リチャードは警備主任と関係が悪く、周りからは省かれ、数日前に退職届を出していました。本人曰く、バンドに専念したいから辞めるとのことです。
窃盗犯が館内に入る15分前、外扉が解放されていました。窃盗犯は館内に入り、リチャードに「指名手配犯だな。机から離れろ」と言い、リチャードは窃盗犯に従います。この時に机の下にある緊急通報装置ボタンを押すことができれば、今回の事件は起こらなかったのでしょう。
FBIはリチャードを窃盗犯の内通者として疑いますが、確たる証拠は出ませんでした。
リチャードと一緒に夜勤を行っていたもう一人の警備員は、夜勤未経験の男で、職場にトロンボーンを持ち込んでいました。病欠で休んだ高齢の警備員の代わりに夜勤を担当しました。高齢の警備員は休みがちで、大雨の日は「職場に行きたくない」と休むほどでした。
無責任な警備員が数億ドルの美術品を守っていたのに驚きを隠せません。
なぜ犯人は館内に詳しかったのか
地元のギャングのルイ・ロイスは、ガードナー美術館の中庭に発煙弾を投げ込み、館内が混乱している時に美術品を盗もうとしましたが、捕まりました。ロイスは館内の内部情報を知っていました。
1981年、FBIは館内の脆弱性について美術館側に伝えますが、犯人は逮捕されたため、特に対処はしませんでした。
1990年代、美術館は少しずつ改革を進めていきますが、館内の環境管理システムの導入を優先するため、セキュリティは後回しとなっていました。
FBIは、ルイ・ロイスから情報を入手したギャングの犯行ではないかと疑います。美術館の脆弱性については、ギャングなどの裏社会では、知れ渡った情報でした。
謎の男
事件から25年後、FBIは謎の男が映っていた監視カメラの映像を一般公開し、市民に情報提供を求めます。しかし、元警備員から映っている男は当時の副主任だと連絡が入ります。明らかになるのが遅すぎます。
盗んだ美術品の目的
1980年代、美術品の盗難事件が増加し、盗んだ美術品は麻薬の取引や武器調達の資金、刑期の減刑の交渉材料などに使われていました。
当時のボストンは、コカインの巨大市場となり、麻薬の取引が頻繁に行われていました。銀行強盗などの強盗事件も多発し、多くの犯罪組織が生まれました。
FBIはギャングの壊滅を目指し、逮捕していきます。ギャングたちは、減刑交渉の材料のために美術品を狙います。
ボビー・ドナーティ
1989年、ギャングの幹部であるヴィニー・フェラーラが逮捕されました。ヴィニー・フェラーラは、運転手であるボビー・ドナーティと数回にわたる面会を行います。ボビー・ドナーティはマイルズ・コナーの友人でもあり、盗難事件の計画を立てていたこともありました。
ボビー・ドナーティはヴィニー・フェラーラを釈放するため、ガードナー美術館の美術品を盗んだと言われています。ボビー・ドナーティが警察官の制服が入っている紙袋を持っていたことが目撃されています。
1991年9月24日、殺害されたボビー・ドナーティが車のトランクから発見されました。
ウィリアム・ヤングワース
1997年3月、元記者のトム・マッシュバーグは、マイルズ・コナーが盗んだ美術品を隠している倉庫を突き止めます。
倉庫を管理するウィリアム・ヤングワースは懲役の刑に処せられ、免れるために倉庫に置いてある盗難品「ガリラヤの海の嵐」を交渉材料にします。
しかし、絵の具のかけらを鑑定すると、「ガリラヤの海の嵐」には使われていない絵の具であることが判明します。
美術館側は、減刑と引き換えに美術品を取り返すことを望みますが、FBIは受け入れませんでした。
ギャレンテ
ボビー・ドナーティが失踪した翌日、息子はボビー・ドナーティの親友でもあるギャレンテに電話をしていました。ギャレンテは州内で最も知られたギャングで、1980年代にガードナー美術館の美術品を盗もうと計画を立てていました。
その頃、州警察はドーチェスターにあるTRCオート(自動車修理店)を監視していました。
TRCオートには、メルリーノ、パパス、ディビッド・ターナー、ジョージ・ライスフェルダー、レニー・ディミュジオなどギャングの主要人物が集まり、ギャレンテも店を出入りしていました。
コカイン不法取引の罪で捕まったメルリーノは、盗難品を返還すると取引を持ちかけます。FBIはTRCオートに集まるギャングがガードナー美術館の盗難の計画をしたと推測します。
ジョージ・ライスフェルダー
殺人の罪で16年間服役していたジョージ・ライスフェルダーは、冤罪と判決され釈放されます。
1990年、ジョージ・ライスフェルダーの自宅を訪れた義妹は、壁に飾ってある絵画を見つけます。その絵画は盗難品の「トルトニ亭にて」でした。
義妹は新聞やテレビを見ないため、盗難事件について知らず、事件から数年後に美術館から電話があり、そこで盗難品であることを初めて知りました。
1991年、ジョージ・ライスフェルダーは薬物の過剰摂取で亡くなりました。
ボブ・ジェンタイル
FBIはギャングを壊滅させるために総力を上げ、ギャングを続々と逮捕していきます。
ディビッド・ターナーが逮捕され、息子のように可愛がっていたギャレンテは、絵画を交渉材料に減刑を求め、弁護士と連絡を取り合っていましたが、取り合っている途中に亡くなりました。
2002年、ギャレンテは盗難品をボブ・ジェンタイルに渡していました。ボブ・ジェンタイルは、コネチカット州・ハートフォードに住む地元のギャングです。
2012年3月10日、FBIはボブ・ジェンタイルの自宅を家宅捜索します。出てきたのは拳銃や麻薬だけでしたが、盗難事件に関する新聞記事や盗難品の値段をメモした紙が見つかりました。
ボブ・ジェンタイルは収監されますが、盗難事件については口を割りませんでした。
2013年3月18日、FBIは盗難事件の犯人を特定し、すでに犯人は死亡していることを記者会見で発表します。犯人などの情報は捜査中のため明かされませんでした。
結局
結局のところ、犯人はTRCオートを出入りするギャングだと思いますが、1991年にレニー・ディミュジオは殺害され、1995年にパパスが殺害されています。2004年にギャランテが突然死し、2005年にメルリーノが獄死しました。
盗難事件に関わったとされるギャングは、ほぼ全員亡くなっています。
唯一生き残っているのは、2019年に釈放されたディビッド・ターナーです。彼は口を割りませんが、盗難事件に関する何らかの情報を持っていることは確かです。
盗難品は世界各地で目撃されますが、未だに有力な情報はありません。
2021年4月現在、ガードナー美術館は有益な情報に1000万ドルの報奨金を用意しています。
犯人が亡くなってしまっては突き止めようがありません。まさに、死人に口なしです。
まとめ
盗まれた美術品の使い道に驚きました。早く美術品が元の場所に戻ることを祈ります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。