こんにちは、つけものなすです。
今回は、軍を退役したトム・ハンクスが孤児の少女に出会い、家族のもとに送り届けるロードムービー『この茫漠たる荒野で』について書きたいと思います。
茫漠(ぼうばく)は、「広々としてとりとめのないさま」を現します(僕は漢字が読めませんでした)。
この茫漠たる荒野で
ジェファソン
『この茫漠たる荒野で』(21年)は、アメリカでは2020年12月25日に劇場公開され、他の地域では2021年2月10日にNetflixで配信が開始されました。監督は『ジェイソン・ボーン』(16年)や『7月22日』(18年)のポール・グリーングラス。
舞台は南北戦争から5年後の1870年のテキサス。主人公は軍を退役したジェファソン・K・キッド大尉。背中には戦争で受けた傷跡があります。ニュースの読み聞かせを仕事としているため街を転々とする中、ある少女(ジョハンナ)に出会います。
ジェファソン・K・キッドを演じるのは、『グレイハウンド』(20年)や『トイ・ストーリー4』(19年)などに出演しているトム・ハンクスです。近年だと『キャプテン・フィリップス』(13年)や『グレイハウンド』(20年)など海上系が多い印象なので、荒野を駆け巡るトム・ハンクスは『トイ・ストーリー』のウッディみたいで新鮮です。
ジェファソンは印刷工房をもち新聞を刷っていましたが、戦争により軍に所属することになりました。妻もいますが、戦争によって離れ離れに。妻の話になると、なぜかうやむやな回答をします。銃を持っていますが、鳥を撃つ散弾の弾しか装着していません。
ジョハンナ
ジョハンナは6年前にカイオワ族の襲撃に遭い、家族を殺され連れ去られました。その後はカイオワ族に育てられたため、英語を話すことができません。巡回中の軍人にレッドリバーの指揮所に行って、預かってもらえと言われます。
ジェファソンはジョハンナを連れて指揮所に向かいますが、担当官が不在で戻るのは3ヶ月も先になると言われます。読み聞かせの仕事があるため3ヶ月も待つことはできず、戦友のサイモン夫婦に預けることにします。
読み聞かせを終えると、ジョハンナが逃げたことを知ります。急いで探し出し、ジョハンナを保護しますが、夫婦からはこれ以上手に負えないと断られます。責任を感じたジェファソンは、640キロも離れているジョハンナの伯母さん夫婦が住んでいるカストロヴィルへ向かいます。ジェファソンとジョハンナの長い旅路が始まります。
ジョハンナを演じるのは、本作が国際デビューのヘレナ・ゼンゲルです。インディアンの生活をしていたジョハンナが、ジェファソンと旅をしていく中で様々なことを学んでいきます。言葉は通じませんが、気持ちは伝わってきます。
戦争は終わっていない
ジェファソンは鳥用の銃弾しか持っていないため、サイモンから護身用に銃を受け取ります。ジョハンナは何をするにも抵抗するので、服を着替えさせるだけで一苦労です。
次の街へ辿り着くと、三人組の男がジョハンナを人身売買しようとジェファソンに付き纏います。急いで逃げますが、丘に追い詰められます。三人組の男は銃を持ち、ジェファソンを殺そうとします。ジェファソンはサイモンから受け取った銃の引き金を引き、三人組の男と戦うことになります。
南北戦争は1861年から1865年に起こった内戦です。黒人奴隷制度の解放が争点となり、北軍と南軍が激しく戦いました。4年にわたる戦いの末、北軍が勝利しました。終戦した1865年には、黒人奴隷制の廃止が決まりました。
しかし、北と南の対立は深まり、黒人の差別問題は現代にまで引き継がれています。ジェファソンは道中で、リンチされて首を吊った黒人男性を見つけます。その男性には「テキサスは白人の地だ」と書かれた張り紙が貼られています。
サイモンから受け取った銃はパルメット農場の戦いで使った銃です。パルメット農場の戦いは、南北戦争の最後の武力衝突と言われています。その銃の引き金を引くということは、未だ南北戦争は終わっていないことを現しているに見えます。
戦争によって制度は変わっても、人々の考えを変えることはできません。
ネタバレ感想
ここから先は物語の結末にも触れているのでネタバレ注意です。
三人組の男を迎撃したジェファソンとジョハンナは旅を続け、イーラス郡に入ると郡を牛耳っているファーリーに半ば捕まり、ニュースの読み聞かせをすることになります。イーラス新聞を読み聞かせろと命令されますが、その紙面にはバッファローやインディアンを殺す白人のイラストが写っていました。
ジェファソンはイーラス新聞ではなく、ペンシルベニア州の小さな町の記事の読み聞かせをします。その町ではバッファローではなく、石炭を売っていることを紹介します。石炭を採掘している炭鉱で安全性を軽視したため、大火事が起きて多くの労働者が亡くなりました。豪邸に住んでいる炭鉱の責任者はそのことについて目もくれず、労働者をただの駒として扱っていました。
火事から生還した労働者は、より良い生活のために力を合わせて反撃し、責任者に立ち向かいます。そのことを知ったイーラス郡の住民は、火事から生還した労働者のように暴動を起こし始めます。ジェファソンは外の世界の情報を与え、真実を知った住民は権力者に立ち向かいます。ジェファソンは、現代社会でSNSなどにデマ情報を拡散する人に対し、そのデマを訂正する人にも見えました。
ジェファソンとジョハンナは急いで逃げますが、ファーリーに見つかります。銃で撃たれそうになりますが、ジョン・キャリーが助けに来てくれます。ジョンの親類はファーリーに逆らい殺されました。
ジョンを送り届け、危険なカイオワの地へ向かいます。道中では、ジョハンナの暮らしていた家を訪れ、馬車の事故に遭い、砂嵐に巻き込まれ、前途多難な道のりとなります。
ようやくジョハンナの伯母さん夫婦の住む村に辿り着き、ジョハンナを引き取ってもらいます。ジェファソンはお礼のお金を受け取らず、ジョハンナに本を買って学ぶようお願いします。戦争によって制度は変わりましたが、人々の考えは変わりませんでした。変わるには本を読んで学んでいくしかありません。昔も今もやることは変わりません。ジェファソンは未来のために、今を生きる子供に希望を託します。
ジェファソンは妻のいる街を訪れますが、妻は戦時中に感染症(コレラ)で亡くなっていました。彼女が亡くなったことは、戦時中に知らせを受けて知っていました。戦争で大勢の人を殺し、その罪で妻は死んだと思っています。
旅の道中で妻の話になると、うやむやな回答をしていたのは、妻の死を受け入れることができなかったと考えられます。死を受け入れることができないため、長い間訪れることができませんでした。この旅は、ジョハンナを送り届けるためでもあり、自分と向き合うためでもありました。
ジェファソンは妻の墓を訪れ、ジョハンナを引き取りに行きます。その後は二人で街を転々とし、ニュースの読み聞かせを行い「めでたし、めでたし」で幕を閉じます。
本作の背景には戦争がありますが、そこまでテーマが重くないので誰でも見られる面白い映画になっていました。ちょっと物足りない感じもしますが。
まとめ
物語の舞台は南北戦争後の世界ですが、現代社会のことを現しているようにも見えました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。