【ネタバレ感想】Netflix『ペンギンが教えてくれたこと』翼の折れた妻と鳥

こんにちは、つけものなすです。

今回は、不慮の事故に遭い下半身不随となった妻とその家族を描いた映画『ペンギンが教えてくれたこと』について紹介したいと思います。

 

ペンギンが教えてくれたこと

翼の折れた

『ペンギンが教えてくれたこと』(21年)は、キャメロン・ブルームとブラッドリー・トレヴァー・グリーヴが2016年に発表したノンフィクション「ペンギンが教えてくれたこと ある一家を救った世界一愛情ぶかい鳥の話」をもとにしたNetflixオリジナル映画です。原題は「Penguin Bloom」。ちなみに本作は、『ハッピー フィート』(06年)のようなペンギンは出てきません。

三人の子供をもつブルーム夫婦は、家族旅行でタイに訪れていました。楽しい旅行のはずでしたが、妻のサムは不慮の事故に遭い下半身不随となってしまいます。車椅子生活を余儀なくされたサムは、起き上がるのもやっとで、子供の面倒さえ見ることができません。母親として何もすることができず、ひどく落ち込みます。

妻のサムを演じるのは、『キング・コング』(05年)のヒロインで話題となったナオミ・ワッツです。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14年)や『ウルフ・アワー』(19年)などにも出演しています。サムは変わり果てた現在の姿を受け入れることができず、部屋に飾ってある家族写真を叩き壊してしまいます。壁に家族の身長を線で書く時も、車椅子のサムは一番小さくなっています。子供が足を触っても感じることができないサムを見ていると、ホントに悲しくなってきます。

夫のキャメロンを演じるのは、『ウォーキング・デッド』の主演リック・グリムスなどを演じたアンドリュー・リンカーンです。弱音を吐かずに妻を支え、子供の面倒を見るなど良き父親を好演しています。

 

罪悪感

不慮の事故は突然起こりました。宿泊先の屋上の手すりにサムが掴まった瞬間に、さびれていたせいか手すりごと落下。命は助かりましたが、下半身不随の重傷を負います。

子供のノアは罪悪感を感じていました。事故当時、サムを屋上に呼んだのはノアでした。もしあの時に母(サム)を呼ばなかったらこんなことにならなかったと自分を責めるようになります。サムは何で自分がこんな目に遭ったのか、ノアだったら自分は助かったのにと、考えてはいけないことを考え始めます。

子供のノアを演じるのは、グリフィン・マレー・ジョンストンです。おそらくスクリーンデビュー作だと思います。ノアがギターを練習している場面があるのですが、練習している曲はビートルズが1968年に発表した「ブラックバード」です。

「ブラックバード」は、1960年代の公民権運動に影響を受け黒人女性に向けて作った曲です。歌詞は鳥(Blackbird)を女性に例え、「傷ついた翼で飛んで、光を目指す」とサムやペンギンにも重なる部分があります。

 

ペンギン

海辺で遊んでいる子供たちは、怪我をしているカササギを見つけます。子供たちはカササギを家に持ち帰り、サムやキャメロンを説得して飼う事にします。カササギの見た目が白色と黒色でペンギンに似ていることからペンギンと名付けます。

サムはキャメロンから気分転換に外に出ようと提案されても応じず、家のカーテンを閉め家にこもっています。心配した友人が訪ねてきても、合わせる顔がなく居留守を使います。そんな中、子供たちからカササギのペンギンの世話を頼まれます。

サムは部屋中を縦横無尽に歩き回るペンギンを車椅子で必死に追いかけます。ペンギンは飾ってある壺を割り、サムはまるで赤ちゃんのお世話をしているようです。一緒に過ごしていくうちに、怪我をして飛ぶことができないペンギンに愛着が湧いてきます。歩くことができないサムは、飛ぶことができないペンギンと重なります。

物語の前半は不慮の事故に遭い、幸せな家族とは一変して家族がバラバラになっていく様子が描かれているので、思わず目をそむけたくなります。ですが、物語の後半ではペンギンが悪戯してカーテンを開けるように、物語にも少しずつ光がさしてきます。

 

ネタバレ感想

ネタバレ注意
ここから先は物語の結末にも触れているのでネタバレ注意です。

翼を広げ大空に飛んでいくペンギンを見たサムは、インストラクターであるガイの指導のもとカヌーの練習をします。カヌーが転落をした時に備え、怖がるサムは勇気を振り絞り水の中に潜ります。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(95年)で草薙素子が海に潜る理由について「海面へ浮かび上がる時、今までとは違う自分に慣れるんじゃないかと、そんな気がする」と話す場面があります。サムも同じようなことを思い飛び込んだと思います。海の底に沈んでしまったサムは、地上へと浮上します。心も体も。

サムとガイが練習している時にある歌を歌いますが、その時に歌っているのはレディオヘッドが1992年に発表した「Creep」です。「Creep」はすごいネガティブな曲で、But I’m a creep, I’m a weirdo(僕はキモい変なやつだ)、I don’t belong here(ここは僕に相応しくない場所だ)と自虐的な歌詞になっています。サムは自分に起こった悲劇を受け止め、前に進んでいこうとしているように見えました。

サムの母親の家で、ペンギンが他の鳥に襲われどこかへ飛び去ってしまいます。その様子を見たサムは、自分もまた同じように傷ついてしまうのではないかと不安そうな顔を浮かべます。

サムはノアが自分を責めていることを知り、お互いに本心を打ち明け、家族は抱き合います。抱き合う姿は『ROMA/ローマ』(18年)と同じくらい美しかったです。

サムは家族と一緒に灯台のふもとに行きます。そこで、サムは再び立ち上がります。これは映画でしか表現できない魔法です。

最後、サムの元にペンギンが訪れ大空へ羽ばたきます。

 

まとめ

物語後半の再び立ち上がる姿に感動しました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

参考文献

Penguin Bloom (2020) – IMDb

https://www.imdb.com/title/tt6317656/

 

ザ・ビートルズ「Blackbird」:ポールが語る曲名の比喩と意義

https://www.udiscovermusic.jp/stories/blackbird-story-behind-song-beatles

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