【ネタバレ感想】『バーシティ・ブルース作戦: 裏口入学スキャンダル』学歴が金で変える現代社会

こんにちは、つけものなすです。

今回は、アメリカで起こった大学不正入学スキャンダル『バーシティ・ブルース作戦: 裏口入学スキャンダル』(21年)について書きたいと思います。

バーシティ・ブルース作戦: 裏口入学スキャンダル

スキャンダル

『バーシティ・ブルース作戦: 裏口入学スキャンダル』(原題:Operation Varsity Blues)は、2021年3月17日から配信開始されたNetflixオリジナル・ドキュメンタリーです。監督は、『FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー』(19年)のクリス・スミス。上映時間は1時間40分。

2019年にアメリカの大学で不正入学の大スキャンダルが発覚し、50人以上が起訴され、大きな話題となりました。そのスキャンダルについて、再現ドラマを交えたドキュメンタリーとなっています。

事件の首謀者であるリック・シンガーは、子供を名門大学に入学させたい親から多額の賄賂を受け取り、不正入学をしてきました。受け取った賄賂を隠蔽するため、シンガーが主催する慈善団体に寄付金として支払われ、その金額は2011年から2018年にかけて、約2500万ドル以上にも及びます。

 

首謀者リック・シンガー

シンガーは、個人で活動する入試カウンセラーです。入試カウンセラーは入試対策や論文指導、志望校選びなどを行います。講演会も開いていました(そこで話した内容は嘘が多かったそうです)。彼はスポーツウェアを着て生徒を指導し、大学に入れるコーチのような存在でした。

元教え子は当時の彼の印象について、「友達はみんな彼の会社(フューチャー・スターズ)を利用していた」、「利用しなければ後で後悔する」、「無口で愛想のないタイプ」と話しています。支持されているのと同時に、愛想がなく、何を考えているのか分からない人物でした。

不正は2011年頃から行われ、願書の捏造など小さな不正から始まりました。受験者は白人なのにラテン系やアフリカ系と記入し、優遇措置を受けようとしていました。自身の経歴や会社の実績も偽っていました。

彼は幼い頃に両親が離婚し、不幸な幼少期を送っていました。学力は良くて話術に長けており、複数の大学に通い指導者となります。しかし、短気な性格の上、指導中に問題を起こすことが度々ありました。ドキュメンタリー中には、シンガーがバスケの試合中に怒鳴り散らす場面があります。鬼コーチとして有名でした。

その後、成績が振るわないため全コーチが解雇となり、彼は入試カウンセラーとして独立します。このコーチの経験が不正入学の手口へとつながります。

 

依頼主

この事件は50人以上の人々が起訴されました。その中には、『デスパレートな妻たち』に出演し、『トランスアメリカ』で第78回アカデミー賞・主演女優賞にノミネートされたフェリシティ・ハフマンや、『フラーハウス』のレベッカ役で知られているロリ・ロックリンなど、有名人や実業家などのセレブがいました。

ロリ・ロックリンが不正入学させた娘のオリヴィア・ジェイドは、チャンネル登録者数が100万人以上のYouTuberとして有名でした。朝のルーティーンやメイク動画を挙げており、自身のブランドも立ち上げています。

 

彼女の親は50万ドルの賄賂を支払い、USC(南カリフォルニア大学)に不正入学させます。彼女はボートのスポーツ推薦として入学しますが、ボートの経験が全くなく、インフルエンサーとして活躍しているのにスポーツする時間はありません。当時の高校の進路指導員は不審に思い、大学側に連絡しますが、そのことを知った彼女の父親が「娘のチャンスを奪うのか」とまくし立てます。

彼女は既にインフルエンサーとして成功しているにも関わらず、大学にこだわる理由について、「両親とも高卒だから大学に入れさせたかった」と話しています。事件発覚後は、自身のブランドのコラボ商品など製造中止となり、皮肉なことに、さらに有名になっていきます。

 

大学受験

テストで高得点を出す生徒には、ある共通点があることが分かります。それは、親の収入が高いことです。富裕層の子供は、予備校や塾など質の高い指導を受けることができます。大学受験は一大ビジネスとなり、金銭に余裕のある家庭だけが、塾や予備校に通うことができます。質の高い指導は1時間200~300ドル、さらに高い指導は500~1500ドルかかります。

しかし、シンガーに依頼した人物は、有名人や実業家などの富裕層でした。彼らはお金を出して高い指導を受けることができるのですが、なぜ危ない橋を渡ってまでも、子供を名門大学に入学させようとしたのでしょうか。

名門大学に入ることが一種のステータスとなり、子供が名門大学に入ると親のステータスも上がり、周りに自慢することができます。受験は子供のためではなく、親のためにあると言っても過言ではありません。アメリカには3000以上の大学がありますが、受験者は大学ランキングの上位を狙います。

これはどの国にも共通していることだと思いますが、学歴がモノを言う現代社会です。大学で「何を学んだか」ではなく、「どこの大学を卒業したか」が重要になっているのが一番の問題な気がします。

 

再現ドラマ

ドキュメンタリー中の再現ドラマは、政府が公開した盗聴記録をもとに一部修正を行い作られました。再現ドラマのリック・シンガーを演じるのは、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』などに出演しているマシュー・モディーンです。何のために不正入学をするのか、何を考えているか分からない謎多き人物を演じています。本物のリック・シンガーにそっくりです。

 

作戦名の由来

FBIが名付けた作戦名「バーシティ・ブルース」は、1999年に公開されたアメリカ映画『バーシティ・ブルース』に由来します。監督はブライアン・ロビンス。出演者は、ジェームズ・ヴァン・ダー・ビーク、ジョン・ヴォイト、ポール・ウォーカーなど。

アメフト部の高校生が、鬼コーチと戦うスポーツ青春物語です。鬼コーチは選手に罵詈雑言を浴びせ、選手が試合中に怪我をしても、無理矢理にでも出場させようとします。そのやり方について疑問に思った選手たちが、コーチに反論していきます。

このやり方は間違っていると分かっていても、上司や上の立場の人に逆らうことができない社会に対してドロップキックをかましています。最後は胸熱な展開となり、生クリームにも驚かされます(実際はシェービングクリームらしいです)。

バーシティ(varsity)は「大学の代表チーム」みたいな意味で、ブルース(blues)は選手がきている青色のユニフォームを指すかと思います。

 

ネタバレ感想

ネタバレ注意
ここから先は物語の結末にも触れているのでネタバレ注意です。

スポーツ推薦

シンガーの不正入学の手口は、大きく分けて二つありました。一つは、スポーツ推薦枠です。

大学のコーチや入試課に賄賂を渡して買収し、スポーツ推薦として入学させます。そんな簡単に大学側は金を受け取ってくれるのか疑問に思いますが、ヨットやフェンシング、乗馬などのマイナー競技は、常に財政難となっており、不足した金額は寄付金で埋めていました。遠征費などの諸経費は大学側が負担していました。

そこに目をつけたシンガーは、マイナー競技のコーチや関係者に「多額の寄付をしてくれる親がいる、その代わりに子供を入学させてほしい」と唆し、生徒を入学させます。シンガー曰く、大学に実力で入るのは正面口、多額の寄付で入るのは裏口、裏口では入学できる保証はないため、自身が考えたのは通用口と呼んでいます。

マイナー競技のため、不正に入学する生徒に疑問を呈する者はいませんでした。もしいたとしても、不正に関わっている大学の関係者が揉み消します。

大手不動産会社の御曹司ジャレッド・クシュナー(ドナルド・トランプの娘イヴァンカの夫)は、ハーバード大学出願の際に父親が250万ドルの寄付を約束し、入学したそうです。裏口入学は、100万ドル以上を必要としますが、シンガーの提示する金額は30〜50万ドルと格安でした。

 

替え玉受験

二つ目は、替え玉受験です。アメリカの名門大学に入るにはACTやSATの学力テスト(大学の共通試験)で高得点を取る必要があります。名門大学に入るには、ACTは36点満点中34~36点、SATは1600満点中1500点以上取らないと、受かることができません。シンガーは、テストで高得点を取るために、ある不正を行います。

まず、受験する子供に学習障害の検査を受けさせます。検査する人間はリックが用意します。学習障害と診断された子供は優遇され、テストの時間の延長や専用のマークシートに解答します。子供がテストを終えると、買収した試験監督マーク・リデルが、目標点数となるよう解答を修正します。

リデルは、各地で試験監督として解答の修正を行っていました。彼は、子供をもってから金が必要となり、シンガーの誘いに乗ったそうです。

 

発覚

事件の発覚は呆気なかったです。不正入学事件とは関係のない別の事件で逮捕された容疑者(Morrie Tobin)が、罪を軽くするために不正入学スキャンダルの情報をFBIに提供しました。そして、FBIはシンガーに事情聴取と捜査協力を申し立て、事件に関わった人物に電話してその内容を録音し、芋づる式に逮捕していきます。

事件発覚後、シンガーは地元に戻りました。彼は捜査協力を続け、逮捕を免れています。地元のテニスクラブのプールでのんびり泳ぎ、周りの人には「刑務所に入るつもりはない」と話しています。首謀者が自由の身となり、反省している様子も伺えません。事件はまだ終わっていません(2021年3月時点)。

 

まとめ

総額2500万ドル以上にも及ぶ、大規模な不正入学事件で驚きました。しかも、知っている有名人も関わっていたので、さらに驚きました。真面目に勉強している子供がかわいそうです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 

参考文献

Must Reads: The bizarre story of the L.A. dad who exposed the college admissions scandal – Los Angeles Times

https://www.latimes.com/local/lanow/la-me-morrie-tobin-college-admissions-scandal-20190331-story.html

 

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