【ネタバレ感想】『時の面影』家庭の天使とニュー・ウーマン

こんにちは、つけものなすです。

今回は、偉大な功績を残したのにも関わらず、近年まで名前が知られていなかった考古学者を描いた映画『時の面影』のネタバレ感想を書きたいと思います。

 

時の面影

ネタバレ注意
ここから先は物語の結末にも触れているのでネタバレ注意です。

バジル・ブラウン

『時の面影』(原題:The Dig)は、2021年にNetflixで配信が始まったオリジナル映画です。イギリスのジャーナリストで小説家のジョン・プレストンが2007年に発表した歴史小説『the dig』をもとに作られています。実話ベースですが、一部はフィクションです。

舞台は1939年、第二次世界大戦直前のイギリス。考古学者のバジル・ブラウンは、裕福な未亡人エディス・プリティに雇われ、彼女の土地にある墳丘墓の発掘をします。

発掘の舞台となる場所は、英イングランド南東部のサットン・フー遺跡で、7世紀アングロサクソン時代の船葬墓を発掘します。

バジルは知識や経験は豊富ですが、学位がないためアマチュアの考古学者と揶揄されています。他の考古学者と比べて賃金は安いです。学校は12歳までしか行くことができませんでしたが、独学でラテン語や地質学を学び、宇宙の本を出版するほどの秀才です。同業者も認める秀才ぶりですが、長距離通勤で低賃金、成果を出せば横取りされます。その様子は現代社会と変わりません。

今回の雇い主エディスは良い人で、離れを貸してくれたり低かった賃金も上げてくれます。現代でいうホワイト企業です。

エディスは発掘された出土品を大英美術館に寄付することを決め、バジルの功績を残すよう要求しました。しかし、バジルの名は残されていませんでした。バジルが発掘したにも関わらず、彼の名前が知れ渡るのは近年のことでした。

考古学者のバジルを演じるのは、『ドクター・ドリトル』(20年)などに出演しているレイフ・ファインズです。『ハリー・ポッター』シリーズでは、名前を言ってはいけない「あの方」を演じています。自転車に乗っているレイフ・ファインズは愛くるしいです。

 

二人の女性

バジルよりも印象に残るのが二人の女性です。

 

エディス

エディスは、「家庭の天使」を象徴しているのではないかと思います。

「家庭の天使」は19世紀頃、イギリスの中産階級が求めた女性の理想像です。 従順で自己主張せず信仰心を持ち、  自己犠牲を厭わず他者のためにつくすことが出来る女性のことを意味します。家事は使用人に任せ、妻が暇を持て余すことが夫の社会的評価の証明となっていました。

エディスは幼い頃から考古学に興味をもち、父親の発掘の手伝いをしていました。ロンドン大学に合格しますが、父親に反対され進学することが出来ませんでした。17歳の時に求婚を申し込まれますが、父親のことを残してはいけないと断り、13年間父親が亡くなるまで世話をしていました。

父親の死後にエディスは結婚しますが、夫は子供が生まれた後に亡くなりました。心臓に病を患っており医者からは治療薬はないと告げられ、次に発作が起こると命の危険に関わります。社会や戦争は、エディスの全てを奪っていきます。

裕福な未亡人エディスを演じるのは、『プロミシング・ヤング・ウーマン』(20年)などに出演しているキャリー・マリガンです。『ドライヴ』(11年)では逃がし屋である主人公のヒロインを演じています。

 

ペギー

「家庭の天使」に対して生まれたのが、「ニュー・ウーマン」(新しい女)です。

「ニュー・ウーマン」は、1883年頃に女性の新しい生き方を描いた小説が登場し、経済的自立や社会的権利の獲得を目指す女性のことを現していました。ペギーは、「ニュー・ウーマン」を象徴しているのではないかと思います。

ペギーはフィリップスに論文を評価され、発掘を手伝うことになります。しかし、フィリップスは論文を見ておらず、ただ体が軽い女性を選びました。発掘現場は男性社会で、唯一の女性はペギーです。エディスがペギーに服を貸す場面は、「家庭の天使」から「ニュー・ウーマン」への移り変わりに見えます。

発掘を進めていくと、ペギーは誰よりも先にお宝を発見します。男性社会で光り輝く女性のように。

ペギーはスチュアートと結婚していますが、上部だけの結婚で違和感をもっていました。ベッドは別々で、ペギーが体を求めてもスチュアートは拒否します。スチュアートは同性愛者のように描かれています。結婚はただの社会的地位の証明です。

そんなペギーは、エディスの従兄弟であるローリーと恋に落ちます。ローリーは写真を撮る記録係として発掘に参加します。ペギーはローリーにキスを迫られるものの、逃げるように立ち去ります。当時の女性にとって、結婚相手以外との性行為は不道徳なものとされていました。

ローリーが軍に入隊することを知ったペギーは、エディスの家でローリーが撮った写真を眺めます。ローリーの写真を探すも、撮る側にいた彼の写真はありませんでした。エディスはペギーに「人生は一瞬よ。大切にすべき時間がある」と言います。

ペギーはスチュアートに別れを告げ、結婚指輪を外します。「家庭の天使」という呪縛から解き放たれたように。そして、再び出会うペギーとローリー。自由になったペギーはローリーと愛し合います。

ペギーを演じるのは、『レベッカ』(20年)などに出演しているリリー・ジェームズです。『ベイビー・ドライバー』(17年)では、走り屋である主人公のヒロインを演じています。逃がし屋と走り屋のヒロインという、助手席に乗せたい女優陣が揃っています。

『時の面影』を初めて見た時は、ペギーとローリーの恋物語は不要ではないかと思っていましたが、「家庭の天使」や「ニュー・ウーマン」など当時の女性像の移り変わりだと知ると重要な場面だと分かりました。

 

SF大好き少年

エディスの息子ロバートは、愛読書が『アメージング・ストーリーズ』、好きな映画が『Buck Rogers』(39年)とSF大好き少年です。

『アメージング・ストーリーズ』は、1926年にアメリカで創刊された世界初のサイエンス・フィクション誌です。日本でも1950年頃に日本語版『怪奇小説叢書』が刊行されたそうです。

『Buck Rogers』は、1939年に公開されたアメリカ映画です。宇宙旅行に出たバック・ロジャースは遭難しますが、仮死ガスで生命を保ち冬眠状態に。500年後にキラー・キング独裁下のパトロール隊に発見され救助されます。バックは独裁者に支配されている地球を救う旅に出ます。少年が「キャプテン・ラスカが鬼」、「キラー・キング」と言うのは『Buck Rogers』のことです。

 

まとめ

戦争は何もかも奪ってしまいます。過去も未来も焼き払ってしまいます。それに対して過去と未来を繋ぐ発掘の意義を感じられました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 

参考文献

The Dig (2021) – IMDb

https://www.imdb.com/title/tt3661210/

 

The Dig True Story: What The Movie Changes About The Sutton Hoo Excavation

https://screenrant.com/dig-movie-true-story-sutton-hoo-1939-changes/

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