国よりも守るべきものが近くにある「新聞記者」

今回は、立場の違う新聞記者と内閣調査室のエリート官僚が真実を求め権力と対峙し社会の闇に迫る映画「新聞記者」について書きたいと思います。

 

ネタバレなし

作品情報

  • 監督 藤井道人
  • 脚本 詩森ろば、高石明彦、藤井道人
  • 原案 望月衣塑子「新聞記者」、河村光庸
  • 製作 高石明彦
  • 製作総指揮 河村光庸、岡本東郎
  • 出演者 シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、岡山天音、郭智博、長田成哉、宮野陽名、高橋努、西田尚美、高橋和也、北村有起哉、田中哲司
  • 音楽 岩代太郎
  • 撮影 今村圭佑
  • 編集 古川達馬
  • 上映時間 113分

 

登場人物

吉岡エリカ(シム・ウンギョン)

東都新聞社会部の女性記者。父親は日米両国で活躍した新聞記者で、誤報を出した責任を負わされ自殺した。

 

杉原拓海(松坂桃李)

内閣情報調査室のエリート官僚。外務省からの出向。

 

杉原奈津美(本田翼)

拓海の妻。

 

陣野和正(北村有起哉)

吉岡の上司。

 

倉持大輔(岡山天音)

東都新聞社会部に所属。

 

高橋和也(神崎俊尚)

内閣府に勤務している。5年前、上からの指示で世に出ては困る文章を改ざんし全ての責任を被った。

 

多田智也(田中哲司)

杉原の直属の上司。

 

ネタバレあり

国を守る仕事

深夜、吉岡の勤める東都新聞社にファックスが届く。

全国の新聞社が一斉に元文科省の白岩聡と野党女性議員の密会を報じた。白岩は大臣の息子の不正入学が発覚し文科省を辞任した経緯がある。不正入学は官邸からの指示だと言い張っていた。

吉岡は昨日の夜にファックスで送られてきた資料を見る。表紙には目を黒く塗りつぶされた羊の絵が描かれており、中身は新設大学院・大学設置計画書だった。新潟に設置する予定で、目的の欄には「ウィルス研究と最先端高度医療に特化された医療系大学でトップクラスの人材育成のため」と書いてあり、認可先が内閣府になっている。日本では大学を作るのは文科省。しかも、経営は民間企業に委託している。不審に思う吉岡は調査することになり、まずは資料の出所を探す。

倉持は「総理べったり記者 辻川和正 レイプ事件逮捕見送り 官邸がもみ消し画策」の記事を見ている。辻川は総理御用達で有名なライターだった。一同は官邸の圧力を疑う。多田は杉原に、レイプ事件の被害者である後藤さゆりが不起訴を不服として会見を開くため、後藤さゆりの弁護士が野党がらみであることをでっち上げるチャート図を作ってくれと言われる。多田は、辻川はさゆりのハニートラップに騙されたと無理やり裏付けようとしていた。

不正入学やレイプ事件の揉み消しは実際に起こった事件を連想せずにはいられません。日本映画でこれだけ現実を反映させているのはすごいと思います。

 

神崎の背負っていたもの

週刊誌にレイプ事件のチャート図が知れ渡り、内調が印象操作をしたと言う記事が掲載された。多田は、後藤さゆりが野党と繋がっていることを与党のネットサポーターに拡散しろと命令を下す。杉原は、北京の日本大使館の上司で現在は内閣府に勤務している神崎と会食をする。杉原は「官僚の仕事は誠心誠意、国民のために尽くすこと」と神崎に言われた言葉を思い出す。

吉岡は、医療系大学設置について白岩に取材する。大学については目的が不明のため、文科省としてやる理由がないと判断し断ったという。リークした人間についは、内閣府に出向している可能性があると答える。

食堂で杉原は都築とバッタリ会う。都築は神崎の後任で、内閣府の医療系大学設置の件でバタバタしていた。杉原は、神崎は内調にマークされていることを知る。杉原は神崎に電話するが繋がらない。神崎の自宅へ行くが留守だった。すると、神崎から電話がかかってくる。神崎は「すまない」と言い残し、ビルの屋上から飛び降り自殺をする。

もしかすると自分が見ている情報は誰か一人、または組織がでっちあげている情報なのかもしれません。

 

仕事と家庭

杉原は神崎に何があったのか多田に聞くが何も教えてもらえず「お前、子供が生まれるそうじゃないか」と一言だけ言われる。杉原は何も言えなかった。

杉原は亡くなった神崎の通夜に行く。記者に囲まれる神崎の妻や娘を見ていた吉岡は父親が亡くなった後、同じように記者に囲まれたことを思い出し神崎の妻と娘を助ける。そこで初めて杉原と吉岡は出会う。

杉原は病院から連絡があり急いで病院へ向かう。妻の奈津美は自宅で破水に気づかず、エコーでお腹の様子を確認したところ羊水混濁が見つかり発熱があった。母子ともに危険な状態だったので緊急で帝王切開をした。母子ともに命に別状はなかった。杉原の着信には何度も妻から連絡があった。

多田の遠回しにこれ以上調べるなと念押しするところは良かったです。見えない圧力を作るのが上手いです。全体的に多田のキャラクターが良かったです。

 

圧力をかけられる

杉原は神崎の自殺した件について都築に聞くが「内調なら自分で調べろ」と突き返される。吉岡は医療系大学設置について頓挫したのでこれ以上は関わるなと神野から忠告される。多田は反政府デモを起こしている一般人の写真を杉原に渡し、経歴を洗うから公安に渡しとけと命令する。彼らは全員犯罪者予備軍だと。

吉岡は偶然見かけた杉原に話しかけ連絡先を渡す。別日に吉岡と杉原は尾行されていないことを確認し二人で会う。神崎は情報漏えいの疑いで内調からマークされていた。二人は神崎が大学計画を止めようとしていたと推察する。

吉岡は医療系大学設置について調査したいと神野に訴えかけるが、会社のトップに圧力がかかっていた。杉原は多田から出産祝いとして祝儀を貰う。「安定した政権を維持させることがこの国の平和と安定に繋がる」と念押しされる。

国が不祥事を起こした場合、スキャンダルをでっちあげたり火消しをしたり嘘に嘘を重ねていることが分かります。多田は「安定した政権を維持させることがこの国の平和と安定に繋がる」とハッキリ言っています。多田の国を守るとは、政権に不都合な真実は揉み消して政権に都合の良い虚偽をでっち上げることです。国を守るとは嘘をつくことなのでしょうか。

 

DUGWAY SHEEP INCIDENT(ダグウェイ羊事件)

吉岡は神崎の自宅を訪ね、神崎の妻に羊の絵について心当たりがないか聞く。娘を喜ばせるために神崎が書いた羊の絵を見る。その羊の目は黒く塗りつぶされていなかった。吉岡は妻から部屋の引き出しの鍵を受け取り開けてみる。そこには、新聞社に送られた資料と「DUGWAY SHEEP INCIDENT」と表紙に書かれた本があった。そこに杉原もやって来る。

1968年、アメリカ・ユタ州にあるダグウェイで生物兵器の実験が行われ大量の羊が亡くなった。医療系大学を設置して日本のダグウェイを作ろうとしていた。医療ではなく軍事目的だった。

ここで明かされる壮大な展開に驚きました。ダグウェイ羊事件を初めて知ったのでいい勉強になりました。

 

葛藤

真実を知った杉原は、病院へ向かい初めて自分の子供を抱き涙を流す。

父親として家庭を守るのと真実を知って暴かなければいけない葛藤に思わず涙を流してしまいます。ピュアな赤ちゃんが眩しくてしょうがないのでしょう。本田翼の演技は、苦悩を抱えている杉原を支えて愛おしいです。

 

ミッション・インポッシブル

都築が出勤前に杉原は都築の部屋で医療系大学の設置についての資料を探す。吉岡は時間を稼ぐため出勤中の都築に話しかけ医療系大学の設置について質問をする。杉原は資料を見つけスマホで撮影する。都築が部屋についた時には誰もいなかった。杉原と吉岡は、日本のダグウェイを作ろうとしていた証拠を手に入れる。

急にスパイ映画でありがちなドキドキするシーンがありました。吉岡がもう少し時間を稼ぐのに焦る様子が見たかったです。あまりドキドキできませんでした。

 

反撃開始

吉岡と杉原は神野に会って医療系大学の設置の件について、「バイオセーフティーレベル4の研究施設が併設される。表向きは平和利用のためだが、G剤は、第二次世界大戦前後にドイツで使用された神経系の毒ガスの総称。テロの脅威と外圧に対応するため軍事転用も可能なレベルの研究と書かれている。ゲノム操作など全ての最先端技術は戦争に転用することが可能だ」と説明する。

神野の携帯にこれを出したら誤報になる証拠は整っていると念押しの電話が入る。杉原は誤報だと言われた場合は自分の名前を出してくれとお願いする。吉岡と神野は会社に帰り記事を作成し、ついに新聞の一面に記事が出ることに。

杉原は家庭のことや国を裏切ることになるが自分の名前を貸すことにします。腹を括る杉原の姿にはジーンときます。新聞の一面に記事が出ることになり、世に発行する場面はこの映画の最高潮です。

 

最後の言葉

杉原のもとに神崎から手紙が届く。手紙には「新設の大学を運営する民間企業は首相の古くからの友人の会社だ。その会社に大量の資金が流れた。これは防衛省、経産省、そして内閣府が捻出した国民の金だ。そこには私の決済印が押されている」と書かれていた。読み終わった後、多田から電話がかかってくる。

新聞社にゲラが届き、内容は「死んだ上司のために官僚が暴走した。それに新聞は騙された」という記事だった。吉岡の父親のことも書いてあった。それと同時に、読売、朝日、毎日の各社が報道を追っかけてきている。吉岡は続報で杉原の実名を出すと決める。

吉岡の携帯に多田から電話がかかってくる。多田は吉岡の父親が報じた記事は誤報ではないと伝える。動揺する吉岡。杉原に電話するが出ない。杉原は多田の部屋にいた。多田から外務省に戻りたいかと誘惑される。条件は今回の件について全て忘れること。迷う杉原。

横断歩道を挟んで会う吉岡と杉原。杉原は一言口にする。

記事が世に出てこれから反撃開始だと思いきや、多田に脅された杉原はまだ迷っている。最後に口パクで言っている言葉は何なのか。僕が見た限りだと「ごめん」と言っているように見えました。国を裏切ることはできませんでした。

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