【ネタバレ考察】誰が善で誰が悪か『ドゥ・ザ・ライト・シング』

ドゥ・ザ・ライト・シング

今回は『ドゥ・ザ・ライト・シング』の登場人物に

ブルックリン、その年一番の猛暑の日。黒人街にあるピザ屋でいさかいが起こった。ある者が店内に黒人スターの写真が一枚も貼られていないことで憤慨。経営者のイタリア人はそれを相手にしなかったが、この一件がきっかけとなり、やがて事件が。その日暮らしのアルバイター、飲んだくれの哲人、ピザ屋の主人の息子たち、韓国人のカップル、といった面々を巻き込んで、ついには暴動へと発展していく

引用元:ドゥ・ザ・ライト・シング : 作品情報 – 映画.com

登場人物全員が何かしらの差別をしていて、善と悪の区別がつかなくなり、誰が正しいのか、何が正しいのか分からなくなってくる。そこで今回は、登場人物から本作を紐解いてみる。

 

ムーキー(スパイク・リー)

サルのピザ屋で働いているムーキー。演じているのはスパイク・リー。

サルの店にゴミ箱を投げつけ、暴動を始めるきっかけを作ったのがムーキーです。彼女がいて子供がいるのですが、お金がなく結婚ができていません。ピザの配達の仕事も途中でサボっていたり真面目に働いていません。子供は彼女と彼女の母親に任せっきりで、彼女の母親がスペイン語を話していると「英語で話せ」と注意します。

妹がサルに気に入られているのを知ると、そのことをよく思わず「サルの店へは二度と行くな」と注意します。確かにサルはムーキーの妹だけ特別扱いします。それにしてもなぜムーキーはそこまでムキになるのか。そこには一つの実際に起きた事件が関係しています。

妹と言い合いになっているシーンの壁には「Tawana told the truth(タワナは本当のことを言っている)」と書かれています。これはタワナ・ブローリー事件のことで、タワナが4人の白人男性に拉致されレイプされたと主張したのですが、裏付ける証拠が発見できず起訴する事ができなかった事件がありました。この事件があったから、ムーキーは妹に白人であるサルに二度と近づくなと注意しました。

Graffiti on the wall behind Mookie and Jade reads “Tawana told the truth” in reference to the Tawana Brawley alleged rape and abduction case of 1987.

引用元:Do the Right Thing (1989) – Trivia – IMDb

 

サル(ダニー・アイエロ)

ピザ屋の店主であるイタリア人のサル。演じているのはダニー・アイエロ。

サルは、黒人がいる街でピザ屋を始め、商売を築き上げたのにも関わらず、店内に飾っている有名人の写真には黒人が写っていなかったりと黒人に対してのリスペクトがありません。バギン・アウトからは「黒人の金とって店出してんだろ?」と言われます。黒人からお金を巻き上げているくらいの気持ちでいるのでしょう。

ひどい人かと思うですのが、住民から敬遠されているスマイリーから活動家の写真を買おうとするシーンを見るとサルはいい人だなと思います。実はそのシーンはシナリオには存在せず、現場のアドリブで作られていたそうです。

The key scene when Danny Aiello and John Turturro talk alone, approximately midway through the film, was partly improvised. The scripted scene ended as the character Smiley approached the window. Everything after that, until the end of the scene, was completely ad-libbed.

引用元:Do the Right Thing (1989) – Trivia – IMDb

 

メイヤー(オジー・デイヴィス)

市長(メイヤー)と呼ばれるアルコール中毒者。演じているのはオジー・デイヴィス。

子供が車に跳ねられそうになるのを助けたり、暴動が起きるのを止めようとしたりと良い人そうに見えますが、アルコール中毒者で、韓国人が開いている店でビールのミラーが置いていないと「何でないんだ」と激怒し店主たちを罵倒しています。アルコール中毒が原因で韓国人に八つ当たりしているようにも見えます。

 

マザー・シスター(ルビー・ディー)

演じているのはルビー・ディー

普段は差別などの言動は感じられませんが、暴動が始まると「燃やせ、燃やせ!」と叫び始めます。おそらく過去に暴動が起きたのを目の前で見ていて、これ以上我慢できないと叫んだのでしょう。

 

ヴィト(リチャード・エドソン)

サルの息子。演じているのはリチャード・エドソン。

兄であるピノのことを良く思っていないません。ムーキーからアドバイスをもらったりしています。差別などの言動は感じられず、黒人と一番うまくいっているように見えます。

 

ピノ(ジョン・タトゥーロ)

サルの息子。演じているのはジョン・タトゥーロ。

黒人のいる街で店を開くのを反対しています。もっと良い所で大きなお店を開こうと父であるサルに提案しますが、サルは反対されます。サルは何十年も自分でピザ屋を開き商売を成功させたことを誇りに思っています。

ピノは向上心があるのですが、サルに反対され嫌気がさしています。その嫌気や苛立ちを黒人にぶつけているように見えます。

 

バギン・アウト(ジャンカルロ・エスポジート)

演じているのはジャンカルロ・エスポジート。

白人男性に靴を汚され激怒し殴ろうとしますが、殴る勇気がなく口だけで終わってしまいます。サルの店の壁に黒人の写真が貼っていないことからラジオ・ラヒームと共にボイコットを始め暴動のきっかけを作ります。

バグアウトは「素早く立ち去る、ずらかる、逃げる」という意味で、何かあると口だけで直ぐに逃げようとします。

ボイコットは白人に対しての嫌がらせではなく、「自分は口だけじゃない、弱虫じゃない」と自分に対する嫌気によってボイコットしているように見えます。

 

ラジオ・ラヒーム

演じているのはビル・ナン。

常にラジカセを持ち歩き、PUBLIC ENEMYの「Fight the Power」を大音量で流しています。韓国人の店では、「下手な英語は話すな」と罵倒しています。バギン・アウトと共にサルの店をボイコットしますが、サルにラジカセを壊され揉み合いになり、白人の警察官に拘束中に殺害されてしまいます。

考察

映画を誰が善で、誰が悪か見ていくと、皆んな良いところがあり、悪いところがあるように作られています。必ずしも差別的であるわけではないし攻撃的でもないことが分かります。それぞれの個人の問題が人種差別へと発展していくことが分かります。